特集
専門領域ごとの6グループが診療
できるだけ患者さんの負担を少なく
「心の通った医療」を提供する消化器内科
hippocrates 31号 2026年10月発行
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日本医科大学消化器・肝臓内科は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆のう、膵臓といった臓器を対象に、診察・治療を行う診療科です。
対象疾患も幅広く、薬物治療や内視鏡による検査・治療のほか、がん治療では消化器外科と連携するなど、患者さん一人ひとりに寄り添った最適な医療を提供。
多くの若手医師が在籍し、夜間の吐下血患者の緊急治療も対応する同科の診療について、厚川正則先生に伺いました。
夜間でも専門医による
治療が受けられる体制
―日本医科大学の消化器・肝臓内科では、どんな診療を行っていますか。
消化器・肝臓内科は、食道、胃・十二指腸、小腸、大腸の疾患と、肝臓・胆のう・膵臓(肝胆膵)の疾患を対象として診療を行います。本学消化器・肝臓内科は、食道機能グループ、胃グループ、小腸・大腸グループ、肝臓・胆のう・膵臓グループ、内視鏡診断治療グループ、化学療法グループという6つのグループに分かれて、それぞれの専門医が他グループや消化器外科、放射線科などの診療科とも連携しながら、すべての領域においてレベルの高い医療を提供しています。特に内視鏡治療に関しては、世界に先駆けて内視鏡的胃ポリープ切除術を行ったパイオニア的存在で、内視鏡センターには消化器・肝臓内科から常勤医を配置しています。
その中でも、食道機能グループは、食道運動障害の患者さんに対して高解像度食道内圧検査(センサーのついた管を挿入して食べ物を飲み込んだときの側道の圧力や動きを測定する検査)、食道インピーダンスpH検査(鼻から細いチューブを挿入して胃から食道への逆流などを調べる検査)などを実施しています。また、小腸・大腸グループでは、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を導入しており、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患の患者さんの治療も多数行っています。
―この科の特徴を教えてください。
付属病院、千葉北総病院、武蔵小杉病院、多摩永山病院の4病院を約80名もの医局員で運営していることです。しかも、医局員の年齢層が平均約35歳と若く、体力があり意欲的な若手医師たちが最前線で活躍してくれています。
このように充実した診療体制が構築されていることもあり、付属病院の消化器・肝臓内科は、東京都の「調整困難患者(吐下血患者)受入指定病院」に指定されています。昼夜問わず、吐血や下血といった消化管出血の見られる患者さんを受け入れ、当科の専門医が治療にあたります。夜間対応はほぼ毎日発生していますが、ほぼ全例受け入れています。また、内視鏡センターにも内視鏡担当医が常駐しており、夜間でも緊急の内視鏡治療に対応できる体制が整っているのです。
―深夜でも専門的な治療が受けられるということですか。
そうです。消化管出血に限らず、胆管炎などの急性症状で受診された場合でも、肝胆膵の専門医がすぐに駆けつけられる当番制をとっているので、どの領域であっても、常に高い水準の治療を受けることができます。


内科と外科が連携して
最良のがん治療を行う
―がん治療に関しての特徴はありますか。
がん治療では、内科と外科、放射線科などの診療科だけでなく、病理部や薬剤部など院内のさまざまな部門との連携が欠かせません。特に消化器外科とは、術前・術後の化学療法などに関して協力し合いながら診療を進めています。今年消化器外科教授に就任した松田明久先生は同期であり昔から仲が良かったので、以前にも増して内科と外科の間の風通しが良くなり、さらに医療の質が高くなればと期待しています。
―化学療法グループがメインでがん治療を進めているのでしょうか。
化学療法グループは、胃がんや食道がん、大腸がんなどの消化管のがんと、肝がんや胆道がん・膵臓がんなどの肝胆膵領域のがんに対する化学療法を行っています。いわゆる抗がん剤と呼ばれる細胞障害性薬剤をはじめ、日々進歩し続けている分子標的薬や免疫療法などを安全かつ有効に使えるように治療しているグループです。
とはいえ、化学療法グループではない医師も化学療法を行います。それは当科の特徴の一つで、自分が担当する外来患者さんが化学療法をすることになった場合、化学療法チームに引き継ぐとは限らず、そのまま他チームの医師が担当し続けることも少なくありません。これは私の外来のポリシーでもあるのですが、他院から教授宛ての紹介状で受診された患者さんは、専門領域にかかわらず最初は自分で診察すると決めています。まずは自分で患者さんと向き合った上で、各専門グループで診療を行っていくのです。
また、当科で研修を受ける専攻医(後期研修医)には、内視鏡センターを含む全グループを経験した上で専門を決めてもらうことにしています。消化器内科医としての専門性は大事にしつつも、全領域についての知識と技術を身につけてほしいからです。研修医たちからも幅広い経験が積めると好評で、現在のような若手医師が多く集まる診療科になっている要因の一つだと思います。
ウイルス性肝炎は減っても
肝硬変患者は減っていない
―厚川先生の専門分野について教えてください。
肝臓の病気全般が専門で、中でもウイルス性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、門脈圧亢進症が専門です。門脈圧亢進症とはあまり聞き馴染みがないと思いますが、肝硬変などにより肝臓に血液を送り込む門脈という太い静脈の内圧が異常に高くなる状態のことで、その状態が進むと消化管静脈瘤破裂や腹水などをきたします。さらに、門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症(PoPH)という指定難病についても、全国の消化器内科医で唯一の肺高血圧学会の学会評議員であり、ガイドラインの編集メンバーにも参加しています。
―最新の検査にはどのようなものがありますか。
従来、肝臓の評価の目的においては、針を刺して肝臓の細胞を採取して調べる肝生検という検査を行わなければいけませんでしたが、近年の肝臓診療では、患者さんの負担がない非侵襲な検査が主流になりつつあります。当院では、超音波で肝臓の硬さや弾性を測定する超音波エラストグラフィという装置や、MRIを使って体内組織の硬さを調べるMRエラストグラフィといった装置を導入しており、非侵襲に肝臓の今の病態をしっかりと調べることが可能です。
―最近の肝臓の病気の傾向などあるのでしょうか。
長らく不治の病とされていたC型肝炎が薬で治せるようになり、肝臓内科医は不要になるなどといった誤った情報が流れていますが、肝胆膵領域の患者さんは減っていません。現時点ではC型肝炎が治せるようになっただけで、B型肝炎は有効なワクチンがあるといっても完治は困難ですし、MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)は増えています。そのほかにも根治が難しい肝臓の病気はまだまだ多く、私たちもより良い治療法の開発につなげるための臨床研究を進めています。
―肝臓専門医として、読者の皆さんに注意してほしいことはありますか。
2023年に日本肝臓学会が「ALTが30 IU/Lを超えたら受診を」という指標を発表しました(奈良宣言)。健康診断の基準ではALT30 IU/Lを多少超えても正常値とされていますが、肝臓の専門医としてはALT30 IU/Lを上回ったら何かしらの肝疾患が潜んである可能性を疑います。
また、アルコール性肝炎の患者さんは現在も増えており、男性に比べて、女性の増加率が顕著です。お酒を飲まない人のMASLDも増えていますが、アルコール性肝炎のほうが予後が悪く、酒量が増えるほど死亡率は高くなります。そのため、早期から治療を開始し、禁酒が難しい人には節酒という指導をするようになっています。完全にお酒をやめなくても、酒量を控えることでも改善しますので、定期的に肝機能を調べて、ALT30 IU/Lを超えたときは受診してください。
若手や女性医師が活躍する
将来への環境づくりも大切
―最近注力している研究としては、どのようなものがありますか。
各グループとも、将来のより良い治療や検査につながることを目指して、基礎的な研究から治療効果を検討する臨床研究まで、幅広く研究活動を展開しています。中でも、内視鏡診断治療グループは、「人工知能(AI)による内視鏡診断支援システムの構築」「胃粘膜下腫瘍に対する安全で確実な内視鏡的全層切除法(EFTR)の開発」など精力的に取り組んでいます。
―日本医科大学消化器内科を将来どのような診療科・教室にしていきたいと考えていますか。
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現在は若手医師がかなり多く、まだひ弱で幼い教室です。しかし、5年後、10年後に今の若手が指導者になっていくと考えると、将来性と発展性にはかなり期待がもてます。そんな彼らが安全面にもおいても充実した医療を提供できるように目を配って、将来大きく羽ばたけるような環境をつくっていかなければいけないと思っています。
また、女性医師も多く活躍しており、出産、育児を経て、みんな戻ってきてくれています。彼女たちが働きやすい環境づくりも重要だと考えていますが、一律に適用するルールを作るのではなく、一人ひとりの家庭環境や体力などに合わせてフレキシブルに対応できるような体制を整えているところです。
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日本医科大学消化器内科の約80人が全員集合
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若手医師と女性医師が多く活躍する活気溢れる消化器内科
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―患者さんに対しては、どのような診療科でありたいと考えていますか。
一番は「断らない」ということ。どんな患者さん、どんな状況でも、最良の医療を提供したいと考えています。昼夜問わず吐下血の患者さんを受け入れているのもそうですが、一人ひとりの患者さんの立場に立った、心の通った医療を目指しています。
厚川 正則先生(あつかわ・まさのり)
日本医科大学消化器内科学 大学院教授。日本医科大学付属病院消化器・肝臓内科 部長。1998年日本医科大学医学部卒業。多摩老人医療センター(現・東京都立多摩北部医療センター)、甲州リハビリテーション病院を経て、2002年より日本医科大学消化器内科勤務。2025年より現職。専門は肝疾患。主な研究テーマは、慢性肝炎、肝硬変、門脈圧亢進症、肺高血圧症。
厚川先生の治療への想い
診察室での患者さんとのコミュニケーションを大切に。
一人ひとりの理解度や背景に合わせた説明を心掛けています。
近年は診断も治療もかなり複雑化していますので、患者さんに合わせた、わかりやすい説明を心掛けています。ある程度複雑な内容を理解してくれる患者さんでしたら、詳しく話して、患者さん自身が選択することも大切だと思っています。なので、私の診察時間は長めかもしれません。「出身はどこですか」「休みの日はどうしていますか」など、家族構成や背景などを知るための雑談が多いです。そうやって信頼関係を築き、一緒に治療を進めていきます。