特集
治療と、その先を支える小児医療
治療後も続く長い未来を見据えて
子どもたちの健やかな成長と健康を守る
hippocrates 30号 2026年07月発行
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近年の小児医療は、高度化、専門化がますます進み、難しい病気も治療可能になるなど飛躍的に進歩しています。
日本医科大学小児科では難病を治療する高度医療を提供するだけでなく子どもたちの健やかな成長や健康を守ることをミッションとして子ども一人ひとりをみる全人的医療を実践しています。
その中で現在注力していることや専門である小児がん治療について同科の宮村能子先生にお話を伺いました。
高い専門性をもちながら
子ども自身をみる医療
―日本医科大学の小児科の特徴を教えてください。
日本医科大学小児科は、高い専門性を有する幅広い領域のスペシャリストが揃っている一方で、子どもたち一人ひとりに寄り添う全人的な医療を実践するジェネラリストの育成を大切にしていることが特徴です。そうした考えは1916年(大正5年)の開講から110年にわたる伝統であり、各専門領域が連携しながら、チームとして最良の医療を提供する体制が整っています。
―教室にはさまざまな専門領域があると思います。それを教えて下さい。
小児血液・腫瘍疾患(小児がん)を中心に、再生不良性貧血や血小板減少性紫斑病(ITP)、凝固疾患などの良性血液疾患を含む幅広い血液腫瘍領域の診療や研究を専門とする血液班、先天性心疾患から不整脈、心筋症まで多彩な診療を行う循環器班、その他、新生児班、腎臓班、膠原病・免疫班、神経班、呼吸器班、アレルギー班などさまざまな専門グループがあり、それぞれが全国レベルの診療と研究を行っています。
また、小児医療と新生児医療は連続する診療領域でありながら、それぞれ独自の専門性を有しています。付属病院では高度な小児専門治療を行っていますが、新生児領域も産科関連合同カンファレンスで情報を共有し、安全な出産に注力しています。早産児や大きな手術が必要な重症例は、武蔵小杉病院が集中治療の拠点となります。付属病院や東京かつしか母子医療センターなどのハイリスク妊婦を対象とした胎児超音波外来も特徴の一つで、誕生前から小児外科や心臓血管外科との連携を始めています。長い生涯を通じて支援できる「成育医療」という考え方を、教室全体として意識しています。

4病院小児科の特徴
付属病院
小児一般総合診療から白血病などの造血器腫瘍や固形腫瘍、先天性心疾患、腎疾患、免疫・膠原病、神経疾患など幅広い専門外来を有し、高度専門医療を担っている。
武蔵小杉病院
小児病棟30床NICU・GCU21床の周産期・小児医療センターでは、積極的な小児救急医療に加え、多診療科と連携し出生前から一貫した家族支援に努めている。
多摩永山病院
小児一般総合診療からアレルギーや循環器など専門診療まで幅広く対応する。多職種・地域と連携して子どもと家族を支える医療を実践する。
千葉北総病院
小児一般総合診療から専門診療まで幅広く提供し、地域の医療機関や学校、行政機関などと連携し、地域全体で子どもたちの健康と成長を支えている。
幅広い専門外来で診療
治療後のフォローアップも
―専門外来について、もう少し詳しく教えてください。
血液・腫瘍外来は、白血病や悪性リンパ腫などの血液のがん、神経芽腫などの固形がん全般の診療を行います。治療が終了した後を専門的にフォローする長期フォローアップ外来もあり、心理士や他科の専門医と連携して実施しています。その他、ITPや再生不良性貧血などの良性血液疾患も幅広く診療をしています。
腎臓外来は、泌尿器疾患、夜尿症の診療のほか、学校検尿の精密検査にもかなり力を入れています。
小児循環器・成人先天性疾患外来は、先天性の心疾患、川崎病後の冠動脈障害、不整脈、心筋症まで幅広い循環器疾患の診療を行っています。成人期への移行期医療も特徴です。
また、アレルギー外来もニーズが高く、クリニックの先生方からも多くのご紹介をいただいています。食物経口負荷試験、経口免疫療法や、生物製剤の導入、舌下免疫療法などを積極的に実施しています。
その他、小児糖尿病や低身長症、思春期早発症などの内分泌疾患の診療を行う内分泌・代謝外来、臨床心理士が小児心身症や精神発達障害の相談に応じる心身症/心理外来などがあり、専門的に対応するとともに、各専門家や各種医療職が連携しながらチームで診療にあたっています。
もちろん、このような専門外来以外にも、小児の総合診療や救急疾患などの受け入れも行っており、どのような主訴の患者さんでも診療する体制が整っています。
―長期フォローアップ・移行期医療とはどのようなものですか。
白血病や心臓病などの重い病気では、まず命を救うことが優先されますが、子どもたちは治療後も長い人生が続きます。しかし、治療の合併症などのせいで原疾患とは異なる健康的な問題が発生したり、体調や心理面で学校に行けないなど、さまざまな問題が生じることもあるので、治った後も健やかに過ごせるように長期フォローアップ外来でフォローを続けています。
日本医科大学は以前からこの長期フォローアップ医療を重視し、看護師はもちろん小児循環器専門医や内分泌医、また心理士とも連携して実施しています。
その中で、循環器内科や内分泌内科など成人の診療科への診療引き継ぎ、または成人科との併診などを行う移行期医療にも力を入れています。これは、成人科と密な連携ができる大学病院だからこそできることだと思います。発育・発達に影響があったり、心理社会的な問題が生じることもあるので、一人ひとりの患者さんの生涯に寄り添った医療を多職種で行っています。
―少子高齢化により子どもの数は減る一方ですが、増えている小児疾患はありますか。
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アレルギー疾患とADHDや発達障害をはじめとする神経発達症ではないでしょうか。当科ではアレルギー専門外来がありますので、多くの患者さんの診療にあたっています。新規治療薬も多く出ています。アレルギーが疑われる食品を少量ずつ食べて安全に食べられるかを確認する食物経口負荷試験など、今後力を入れていきたい領域です。また、神経発達症についても、専門外来があり、多くの患者さんのフォローアップを行っています。
少子化が言われていますが、そのぶん一人ひとりの子どもの成長発達のフォローアップや予防医療はますますニーズが上がっています。小児科医の役割はますます大切に、そして多様になっていると思います。
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小児科病棟には明るく穏やかな空気が流れている
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入院中の子どもたちも楽しめるプレイルーム
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家族と穏やかな時間を過ごすデイルーム
小児の白血病を専門に
治療と研究に注力
―宮村先生の専門である小児がんとはどのような病気ですか。
日本では年間約2000~2500人の子どもが新たに小児がんと診断されます。小児がんは、極めてまれな疾患ですが、子どもの病気による死亡原因の上位を占める重要な疾患です。
では、どのような種類があるかというと、その約半数が白血病、悪性リンパ腫などの血液のがん、残りが脳腫瘍や神経芽腫などの固形腫瘍です(下図)。最も多いのは全体の3割を占める白血病です。
小児がんは稀少ですが、日本全国で臨床試験を実施しており、共通の治療をして、治療成績を上げてきました。日本医科大学もそれに参加して、貢献しています。
ただ、珍しい疾患であることからご家族も情報収集が難しく不安に感じることが多いという課題があります。さらに、成人であれば生活習慣を見直すことでがんを予防できる可能性がありますが、小児がんは予防ができません。急に発症して進行が早いことが多いです。また、一般的に早く見つかったとしても治癒率には影響しません。ご家族が「もっと早く気づいていれば」と悔やまれることを経験しますが、「急に進行すること」「決して遅かったことはなく早く見つけても治癒率は変わらないこと」をお話ししています。
病気が見つかる症状は、発熱や体の痛み、体重減少、おなかの張りなどが多いですが、これらは他の病気でも起こり得ます。ただ、そうした症状が長期間続く場合などで、クリニックの先生が検査をしてわかったということが多い印象です。
―小児白血病は遺伝するのですか。
小児白血病の多くは遺伝しません。多くは血液をつくる細胞に偶然起こった遺伝子の変化(後天的な遺伝子異常)が原因で発症するとされています。一方で、ごく一部に、生まれつきの遺伝的な体質(遺伝性腫瘍・遺伝性造血不全症候群など)が発症に関与する場合があり、最近のゲノム医療の進歩により少しずつそのような症例がわかってきています。
―白血病の治療はどのように行われているのでしょうか。
薬物療法が基本です。臨床試験が積み重ねられてきたこと、感染症や副作用をコントロールする支持療法が進歩したことなどにより、50年前は10~20%の治癒率だったものが現在は80~90%を超えるまで向上しています。一方で、長期間の化学療法による患者さんの負担は変わらず大きいですし、何より、今でも治すことが難しい子どもたちがいます。それらを改善するために、私たちは臨床試験や新規薬剤の治療開発などを進めています。
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特に私が力を注いでいるのは、1歳未満で発症する乳児急性リンパ性白血病(乳児ALL)という白血病の治療開発です。乳児ALLは日本で年間20例ほどしか発症しない極めてまれな病気です。これまで5年生存率は50%と低いとされていましたが、最近では免疫療法の進歩などにより、この治療成績は飛躍的に改善してきています。日本の臨床研究グループでは、この病気の治療成績向上のために、国内外での多施設共同研究を先導し、現在は国際共同研究に参加しています。
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治療後の長い人生を
幸せに過ごせるように
―小児治療で大切にしていることはなんでしょうか。
子どもといっても、0歳の赤ちゃんから乳幼児、学童、思春期まで幅広い年代の子たちがいますから、その子の病状や理解度に合わせて対応し理解してもらうことを大切にしています。そして、子どもと同じくらい、最終的に治療を選択する親御さんに理解してもらうことが大事です。
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小児がん診療を通して、自分の中では、子どもに対して何か話すときには絶対に嘘をつかないと決めています。「絶対に治すつもりで治療するよ」とは言っても、「つらくないよ」「がんばれば早く帰れるよ」といったことは言いません。白血病など長い治療をするときほど正直に子どもと向き合うことが大切だと思いますし、信頼関係が築けているかどうかは治療結果にも影響します。
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日本医科大学付属病院小児科のメンバーたち。
強固なチームワークと協力体制で全人的な小児医療を実践
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各分野のスペシャリストが集まるカンファレンス
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入局説明会。小児医療を志望する若い先生方が多く、活気があふれている
―小児科ならではの難しさはどのようなところにありますか。
治療後の人生が長く、その後の成長や発達についても考えていかなければいけないことです。近年は多くの病気が治せるようになったからこそ、その先の長い将来を意識しなければいけません。例えば3歳で治療を受けた子は、その後、50年以上の人生があるのです。その間、学校で勉強をしたり、友だちと遊んだり、さまざまな経験を通して成長していきます。そして、成人してからも長い社会生活を送ることになります。
そのために合併症なく元気になってほしいと思っているのですが、治療や疾患による影響が残ることもあります。ただ、子どもたちには驚くほどのポテンシャルがあり、前向きに進む力を持っています。それを引き出すことも大切だと思っています。そして、私たちはできるだけ合併症が出ないような治療を開発して、子どもたちが健やかに成長することをサポートしたいと考えています。
宮村 能子先生(みやむら・たかこ)
日本医科大学大学院医学研究科小児科学 大学院教授。日本医科大学付属病院小児科 部長。1996年岡山大学医学部卒業。同大学附属病院研修医を経て、2000年同大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。岡山大学病院、大阪府母子保健総合医療センター、大阪大学医学部附属病院を経て、2026年1月より現職。専門は小児血液腫瘍学。
宮村先生の治療への想い
病気ではなく、子ども本人を。今だけでなく、その将来を。
子どもだけでなく、とりまく家族のことも。でも一番大切なのは子ども。
小児医療では、病気を治療すれば終わりとは限りません。治療後の長い人生、将来まで見据えて、子どもたちが健やかに成長し過ごせるような医療を提供したいと考えています。家族や子どもたちを取り巻く環境のことを考え、皆で子どもを支えていくことが大切です。でも、やはり一番大切で、中心なのは子ども自身であると、常に言いきかせながら日々の診療にあたっています。