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書籍紹介
『刑務所の精神科医─治療と刑罰のあいだで考えたこと─』
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本書は、矯正施設(少年院や刑務所など)での精神科医としての臨床経験に基づいて書いたエッセイです。医療関係者のための専門書ではなく、一般読書人むけの医学読み物です。
この本で一番伝えたかったことは何か、改めて考えてみました。一言でいえば、私たちが非行や犯罪に多少とも関心を持つなら、あるいは持たざるを得ないなら、少年院や刑務所などの「塀の中」にいる人たちの人生に関心を持ってほしいということです。
私が矯正施設に赴任してまず驚いたのは、そこに大勢の精神科患者がいることでした。治療を要する患者である以上、刑罰より治療が優先されるべきだと考えますが、そうはいっても塀の外の治療とは条件がいろいろな意味で違ってきます。ソフト面もハード面も違いますが、何よりも患者の病状や個性・特性が違うのです。そこで私の悪戦苦闘が始まりました。本を手に取って、その様子を知っていただければと思います。
(野村俊明) -
書評
刑務所の精神科医という言葉は、医療に従事する多くの人々にとっても、どこか遠くにあるもののように感じるかもしれません。しかし、本書には多くの医療に携わろうとする者にとって大切な言葉が散りばめられています。気軽に読み進めていくうちに、著者の世界に吸い込まれていきます。そして、いつしか、自分の中にありながら日常、目を背けようとしている何かについて考えずにはいられないような深みにたどり着くことでしょう。日本医大を卒業して精神科医となられる前に、哲学を学び、心理学を専攻したという、著者の一味違う経歴が本書に独特の深みを与えているのかもしれません。
専門的な精神医学の知識も丁寧に解説されており、読みやすく、多くの人に勧められるものになっています。ぜひ一読することをお勧めします。(医療心理学教授 吉川栄省)