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これまでの伝統を受け継ぎながらも、社会の変化に対応した進歩を続ける日本医科大学。その源となっている教育や研究についてご紹介します。

増え続ける大腸がん
「未開領域」を解明し次世代診療への道拓く

hippocrates 31号 2026年10月発行

  • 国内では、全ての種類のがんのうち診断数が最も多く、罹患数・死亡者数とも年々増加傾向にある大腸がん。その診療では精密化が進んでいますが、一方で、残されている未解明な部分をいかに解明し、新たな診断法につなげるかが課題です。日本医科大学大学付属病院消化器外科教授の山田岳史先生は、外科医としての臨床現場で実感することを起点に、大腸がん医療の「未開領域」を解明し、次世代の診療法を築こうとしています。主なキーワードは、「液体生検」と「腸内細菌叢解析」です。

    大腸がんは、国内の部位別がんのうち、罹患数で男女とも第2位、死亡数では男性で2位、女性では1位となっています。

    大腸がんの診療法は、個々の患者に対応した個別化医療が普及しだすなど進歩しているものの、原因や診断法をめぐる「未開領域」はいまなお残っています。

  • 山田岳史先生

「より有用な診断法・治療法を開発するとともに、発がんや転移のメカニズムを解明し、その成果を次世代の診断・治療へつなげることが、我々アカデミアの使命であると考えています」

こう話すのは、日本医科大学付属病院消化器外科教授で、遺伝診療科部長を兼任する山田岳史先生。最近特に、研究に力を入れているのが、「液体生検」そして「腸内細菌叢解析」です。

血液・尿などの液体をもとに診断
「代わり」以上の可能性を見出す

液体生検(リキッド・バイオプシー)は、体液の試料から診断する検査法のこと。主に血液を使用しますが、尿を用いた液体生検の開発にも取り組んでいます。

「液体生検は、がんの不均一性というがん治療の課題を克服します」

同じ患者さんのがんであっても、全てのがん細胞が同じ性質をもつわけではありません。がん細胞ごとに、性質や薬剤への感受性などが異なる現象を「がんの不均一性」と呼びます。不均一性には、同じ腫瘍の内部や原発巣と転移巣の間で性質が異なる「空間的不均一性」と、がんの進行や治療の影響によって性質が変化する「時間的不均一性」があります。この不均一性が、治療抵抗性の一因となります。

「生体から細胞を切りだす生検では、どこの部位から採るかで診断結果が変わるおそれがあります。血液を使えば、ふたつの不均一性を把握することができます」

液体生検のほかの利点も強調します。

「微小残存病変の有無を、感度高く調べることができるのです」

微小残存病変とは、手術後も体内に残っている可能性がある、画像検査では捉えられないほど微量ながん細胞を指します。その存在は再発リスクの高さと関連するため、術後化学療法の必要性や治療方針を判断する上で重要な指標になると期待されています。

「画像データで腫瘍細胞の存在を同定するには109個ほどの細胞が必要ですが、液体生検であれば106個程度の腫瘍細胞の存在を同定できると考えられています」

現在、微小残存病変の検出には、血液中の「循環腫瘍DNA(ctDNA)」を調べる方法が主流ですが、その感度は十分ではありません。山田先生たちは、血液に加えて尿も採取し、DNAだけでなくRNAやタンパク質、さらに血液中を循環する腫瘍細胞などを多面的に解析することで、微小残存病変をより高感度かつ正確に捉えようとしています。

これまで液体生検は、主に進行がんの遺伝子解析や治療選択に用いられてきました。日本医科大学八重洲健診ステーションでは、早期がんを含む50種類以上のがんの可能性を一度に調べる多がん種早期検出検査「キャンサーガード」を、高度医療機関として国内で初めて導入しました。「遺伝子変異に加えて、DNAに生じる『メチル化』という化学的変化も調べます。メチル化のパターンは、加齢や発がんに伴って変化することから、がんの早期発見やリスク評価につながる重要な研究対象です」。

大腸癌の再発・薬剤耐性獲得・発癌メカニズムの解明と再発リスク同定法の開発の研究概要図

【大腸癌の再発・薬剤耐性獲得・発癌メカニズムの解明と再発リスク同定法の開発】
多様なアプローチを統合し、大腸がんの本質的理解と再発予防・個別化医療の実現をめざす。

大腸は腸内細菌たちのすみか
がんへの関与のしかたを追う

「腸内細叢菌解析」にも取り組みます。

「大腸がんの95%は遺伝と直接関係なく、環境に問題があると考えられています。そこで大腸内に多数存在する腸内細菌に注目しました」

腸内細菌の大腸がん発症への関与は知られています。山田先生は「細菌叢は変えられる。腸活でがんリスクを下げられるかもしれません」と言います。

「海藻やきのこ、大豆など、食物繊維を多く含む食材は腸内環境の維持に重要とされています。しかし、こうした食材を用いた和食を摂る機会は減少しています。食習慣の変化が腸内細菌叢や健康に及ぼす影響に着目し、解析を進めていきます。八重洲健診ステーションを受診する健常者の方からも便検体をご提供いただける体制が整ったため、がん患者との比較を含め、研究に活用したいと考えています」

手術や周術期の抗菌薬、食事の変化などによって、術後の腸内細菌叢は大きく変化し、回復には半年程度を要します。この変化は、患者さんの全身状態や、術後補助化学療法の効果・副作用に影響する可能性があります。

「ただし、腸内細菌叢がどのような状態になれば『回復した』といえるのか、明確な基準はまだありません。私は、細菌の多様性だけでなく、短鎖脂肪酸をはじめとする有機酸の産生機能が回復しているかが、重要な指標になると考えています。術後に望ましい腸内環境とは何かを、私たちの研究で明らかにしていきたいと思います」

これからも、医療現場で抱く疑問を研究の出発点として、未解明の領域に取り組み、次世代医療の創出につなげていきたいと考えています。

山田岳史先生

山田 岳史先生(やまだ・たけし)

日本医科大学 大学付属病院
消化器外科 教授/遺伝診療科 部長

1992年、日本医科大学第一外科入局。2001年、学位取得。2002年、日本医科大学千葉北総病院助教。2013年、日本医科大学講師。2016年、同准教授。2018年、日本医科大学遺伝診療科部長(同ゲノム先端医療部部長兼任)などを経て、2025年、教授。

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