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これまでの伝統を受け継ぎながらも、社会の変化に対応した進歩を続ける日本医科大学。その源となっている教育や研究についてご紹介します。

進展する認知症治療
新薬の投与を一人でも多くの患者に

hippocrates 30号 2026年07月発行

  • アルツハイマー型をはじめとする認知症の治療法が進展しています。抗アミロイドβ抗体薬という新薬の登場によって、病気の進行を遅らせる効果が上がっています。こうした新たな認知症診療のあり方につながる研究と診療を進めてきたのが日本医科大学千葉北総病院の山崎峰雄先生です。研究面では未解明だった脳病変に光を当て、診療面では早期診断の普及や新薬投与に際して医療体制の拡充に尽くしてきました。認知症診療の“これから”を築いている一人です。

    認知症は、脳の障害により認知機能が低下していき、日常・社会生活に支障をきたす病気です。国内の患者数は2022年時点で約443万人。2040年には約584万人になるとみられます。

  • 山崎峰雄先生

1980年代、認知症の研究対象はもっぱら脳の神経細胞でした。日本医科大学千葉北総病院脳神経内科の山崎峰雄先生は、医学部生だった頃に「まだブラックボックスだった」脳に関わる進路を志し、卒業後、赫彰郎(てらし・あきろう)先生(日本医科大学元理事長)のいた日本医科大学付属第一病院第二内科に入局。約2年後に赴任した東京都の医療機関では亡くなった患者の脳を解剖し、従来より知られるアルツハイマー型と異なる認知症の存在に目を向けました。

その後、1992年からは、グリア細胞という神経細胞以外の脳細胞にも着目し、認知症の解明を進めます。「神経細胞だけでなくグリア細胞でもタウというタンパク質が溜まる異常が生じることを発見しました。研究者たちがグリア細胞に注目しだした潮流の一部となる研究です」

早期診療への貢献と
超早期診療への期待

近年の認知症診療では、できるだけ早く病変を見つけて対処することが、発症後の進行を遅らせたり、悪化を防いだりする上で重視されています。山崎先生は、認知症の早期病変や、認知症の手前の軽度認知障害(MCI)の診療の普及につながる貢献もしました。

早期病変関連では、日本医科大学の大学院生とともに、都の「高齢者ブレインバンク」事業で、進行性核上性麻痺(PSP)という神経疾患における早期病変の解明に取り組みました。健常者から患者まで広く高齢者たちの脳の状態を追跡する研究で、対象者の2・5%に病理学的な早期病変があることを見出したのです。その論文は、国内外の多くの研究者に論文で引用されています。

軽度認知症関連では、先行する米国の研究と同形式で行われたJ-ADNIという国内研究で、研究実施臨床施設の一つとなった日本医科大学付属病院の代表医師を務めました。MCIなど早期段階の病気の進み方を追跡するこの研究の期間に習得した診療への姿勢が、同病院では1999年に開始した「もの忘れ外来」の礎になりました。

「将来的には、プレクリニカル期という超早期からの診療が、認知症においても実現していくと期待しています」

アルツハイマー型認知症患者への「ドナネマブ」投与前(上)と12回投与後(下)の診断画像の例。投与後、病因物質の一つとされるアミロイドβの沈着が減少した

アルツハイマー新薬
院内の投与体制を拡充

2023年、アルツハイマー型認知症の治療に進展がありました。12月、病気の原因の一つとされるアミロイドβを取り除く新薬「レカネマブ」が使われはじめたのです。翌年には同系統の「ドナネマブ」も承認されました。これらの新薬は、原因物質を取り除いて病気の進行を遅らせる特徴から、主に軽度認知症患者への新たな治療法として期待されています。

今年3月の定年まで日本医科大学千葉北総病院で副院長を務めた山崎先生は、千葉県から同院に委託された認知症疾患医療センター長でもありました。

新薬の使用開始に際しては、院長をはじめ看護師・薬剤師たちとも協力し、投与のための点滴を実施できる設備を院内に増設。スタッフの体制や設備配置などを検討し、該当する患者さんへの投与をできるだけ増やすことに努めました。

千葉北総病院で新薬投与を受けた患者は、使用開始1年後の2024年12月に40名、2年後に87名、最新の今年3月時点で105名と、着実に増えています。

「レスポンダーとよばれる1年半の投与での認知機能悪化抑制がみられる方だけでなく、3~4年後も不変のスーパーレスポンダーの存在もわかってきました。改善の度合の差がどこからくるか評価し、個人個人に合った診療を提供するのが今後の流れと思います」

新薬を巡っては、タウの異常を取り除く薬の実現も待たれます。「ただし、アミロイドβとタウへのアプローチだけで十分とはならなそう。ほかの鍵となる要素の追究も大切でしょう」と語ります。

定年後も山崎先生は千葉北総病院で週2回、診療にあたっています。

  • 「この大学に軸足を置いてこられたのは、教室の先輩や同級生に、やりたいことをやりなよと自由にさせてもらえたから。今後は同じ志の若者を支えていきたい」

    2026年6月30日に開設した「日本医科大学八重洲健診ステーション」(東京都中央区)でも、保険診療と並行して、アミロイドPET検査などを用いた健診・診断にあたります。日本医科大学の診療ネットワーク充実化のなか、経験や知見を発信し続けます。

    「患者さんたちやご家族と話すと、学びや喜び合いを得られることが少なくありません。楽しさを感じながら、今後も皆さんと接していきたいと思います」

  • スタッフ

    千葉北総病院認知症疾患医療センターのスタッフとともに

山崎峰雄先生

山崎 峰雄先生(やまざき・みねお)

日本医科大学千葉北総病院
脳神経内科・認知症疾患医療センター
八重洲健診ステーション
特命教授

1987年、日本医科大学第二内科入局。都多摩老人医療センター、東京大学、都神経科学総合研究所などに赴任。1995年、医学博士。2005年、日本医科大学講師。2010年、准教授。2014年、千葉北総病院神経・脳血管内科部長。教授、副院長を経て2026年より現職。

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