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血管新生の瞬間を生きたまま見ることに成功
人間の体内に張り巡らされた血管は10万キロメートルにも及び、 全身の細胞に酸素や栄養を運ぶなど、生体にとって重要な役割を果たしています。
一方で、血管機能の異常は、脳や血管の病気、がん、老化との関わりが大きく、血管への理解を深めることは健康長寿社会の実現にとっても大変重要です。
日本医科大学先端医学研究所大学院教授の福原茂朋先生は、蛍光イメージング技術を駆使して、生きた魚、ゼブラフィッシュの体内で血管新生が起こる様子を観察。
未解明なことの多い生命現象を「見る」ことでメカニズムを解明しようと、研究を進めています。
透明な魚を使って血管新生の様子を観察
「私たちが健康で長生きできる社会を実現するには、血管についての理解を深めることがとても重要です」そう語るのは、蛍光イメージング技術を使った血管研究を行う福原茂朋先生。
福原先生は、血管機能の中でも、新たな血管が作られる「血管新生」という生命現象に着目した。 血管新生は、組織に酸素や栄養が届かない虚血状態になったとき、それを解消するために起きる現象だが、がん細胞が周辺の正常な細胞から栄養を奪うために血管を伸ばすような〝悪い血管新生〞もある。
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「血管新生という生命現象を通して、血管がどのように形作られて機能しているのか、また血管機能の異常がどのように病気を発症するのかを分子レベルで理解しようとしています。 こうした研究は、虚血性疾患の治療や、病的な血管新生が関わる病気の治療法開発に役立つものと期待されています」福原先生は血管新生を見る方法として、蛍光タンパク質を用いて血管が光るゼブラフィッシュを開発。ゼブラフィッシュの皮膚に傷をつけ、傷が治る際に新たな血管が作られていく様子を生きたままリアルタイムで観察することを可能にした。
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研究所内で飼育されているゼブラフィッシュ。餌やりは1日たりとも欠かせない
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鑑賞魚として広く飼育され成魚でも体長5センチほどの魚、ゼブラフィッシュは、体外で受精し、発生が早く、胚が透明なので生きたまま体が作られる様子を観察できるというメリットがある。
臓器の発生や構造がヒトと似ていることもあり、生命医学の研究ではとても重要なモデル動物である。
「まさに『百聞は一見にしかず』ということわざの通り、実際の現象を目で見ることで予想外の現象に出会うことも多く、新たな発見につながります」
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福原研究室のスタッフ
現象を見ることがメカニズム解明につながる
生命現象を知るには、身体の中で起きていることを生きたまま見ることが一番だが、当初はシャーレ(ガラス製の平皿)で培養した細胞で研究するしかなかった。
「生きたままの観察を可能にしたのが、蛍光イメージング技術や顕微鏡などの技術の著しい進歩です。
それによりただ細胞の形を見るだけでなく、シグナル伝達物質の活性や細胞周期まで観察できるようになり、私たちの研究も大きく前進しました」毛細血管などの細い血管では、ペリサイトという細胞が血管内皮細胞を取り囲むように接触することで血管の安定性を保つことが分かっている。
しかし、そのメカニズムまでは分かっていなかった。 そこで福原先生はペリサイトが光るゼブラフィッシュを作り、ペリサイトが血管内皮細胞を取り囲んでいく動態を世界で初めて捉えることに成功した。
「まずは見ることで、それまで考えられていた通りに現象が起きているのかどうかを確認する。 さらに予想外の現象が見えるかどうかが研究者としての醍醐味。
そこで見えたことをきっかけに、メカニズム解明へとつなげていきます。日本医科大学は臨床との距離が近いという利点を生かし、今後はこれまでの成果をヒトでの研究に応用していきたいと考えています」
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血管が光るゼブラフィッシュを蛍光顕微鏡で観察する。写真は脳血管
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毛細血管が新たに作られている様子を動画で記録する
福原 茂朋先生(ふくはら・しげとも)
日本医科大学 先端医学研究所 病態解析学部門・分子細胞構造学分野 大学院教授
1992年に筑波大学第二学群農林学類卒業。1997年に同大学院博士課程農学研究科修了。1997年から米国国立衛生研究所(NIH)で客員特別研究員を務めた後、熊本大学発生医学研究センター助手、国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部室長を経て、2016年から現職。