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ノーベル賞受賞へつながった第4のがん治療
外科療法、化学療法、放射線療法につぎ、第4のがん治療として注目を集める新しい免疫療法。昨年秋、「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」で、京都大学の本庶佑特別教授と米国研究者のジェームズ・アリソン教授がノーベル生理学・医学賞を受賞 しました。この本庶教授のもとで、画期的な免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」の原型を作り、新たな免疫療法への糸口を見いだした研究者が、日本医科大学先端医学研究所 大学院教授の岩井佳子先生です。
岩井先生に、ノーベル賞受賞につながった 第4のがん治療と今後の展望について語っていただきました。
免疫のブレーキを外してがんを治療
チェックポイント阻害剤「PD–1抗体」(ニボルマブ、商品名オプジーボ) の登場で、がん治療に革命が起きている。
私たちの体内には、病原体などの「異物」を認識して排除しようとする働きがあり、 それを免疫と呼んでいる。
さらに免疫には、「アクセル」(攻撃)と「ブレーキ」(抑制)の両方が存在する。 今までの免疫療法は、アクセルの力を使ってがん細胞を攻撃していたが、 新しい免疫療法は、ブレーキを解除することでがんの治療をする。 そのブレーキにあたる物質「PD–1」を、京都大学の本庶教授の研究グループが1992年に発見した。
「がんやさまざまな病気における免疫の働きを知りたくて、京都大学の本庶教授の研究室に入門しました」
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岩井先生の教授就任式に出席し、お祝いのスピーチをされた本庶佑特別教授
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岩井研究室のメンバー
大学院生として研究グループに加わった岩井先生は、2000年および2001年に、 ハーバード大学らとの共同研究で、PD–1に結合する2つの物質を発見し、そのうちの一つ「PD–L1」が、がん細胞でも作られていることを突き止めた。
続いて岩井先生は、がん細胞上のPD–L1がPD–1と結合することによって免疫細胞(T細胞)にブレーキをかけること、 さらに動物実験で、PD–1抗体を投与するとがんの増殖を抑えることができることを発見した(図1)。
この研究成果をヒトへ応用すべく、岩井先生はヒトに対するPD–1抗体を作り、 これがもとになってニボルマブが誕生した。
薬の実用化は困難を伴った。当時は免疫でがんが治るとはだれも信じていない時代だったので、 製薬会社は無関心だった。本庶教授の粘り強い交渉により事態が動き、 PD–1抗体ニボルマブは2014年、世界に先駆けて日本で新薬承認された。
「自分の作った薬によって多くの患者さんが救われるのを見ることができて、 研究者としてこのうえない喜びを感じています」
異分野と連携し免疫療法の限界に挑む
免疫チェックポイント阻害剤には次のような課題もある。 「免疫チェックポイント阻害剤はすべての人に効くわけではありません。 現在、効く患者さんを見分ける診断法や、効かない患者さんに対する新しい治療法を開発中です。非常に高価なお薬ですから、患者さんにとっても、社会にとっても無駄なく治療することが重要です」
新しい治療法の開発に向けて、岩井先生は工学部など違う分野との連携も始めようとしている。 「恩師のノーベル賞受賞は大変喜ばしい出来事ですが、私の研究はこれからです。 日本医科大学には研究を重んじる歴史と伝統があり、素晴らしい人材がそろっています。 臨床の先生方とも協力しながら、新しいことにチャレンジしたいと思っています。 次世代の研究者育成にも力を注ぎたいです」
岩井 佳子先生(いわい・よしこ)
日本医科大学 先端医学研究所 細胞生物学分野 大学院教授
1996年に東京医科歯科大学医学部を卒業し、1998年に京都大学大学院医学研究科の本庶研究室のメンバーに加わる。米国ロックフェラー大学客員研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所特任講師、東京医科歯科大学准教授、産業医科大学教授を歴任し、2017年から現職。