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見つけにくい膵臓がん
バイオマーカーを発見し効率的な予防法開発へ

これまでの伝統を受け継ぎながらも、社会の変化に対応した進歩を続ける日本医科大学。その源となっている教育や研究についてご紹介します。

早期発見が難しい膵臓がん。もし早期に見つかれば、生存率や死亡率の改善が望めます。日本医科大学大学院医学研究科大学院教授の本田一文先生は、膵臓がんになると血液中に特異的に現れるタンパク質を発見し、バイオマーカーとして大規模な検証研究を開始しました。膵臓がんの効率的ながん検診法の開発、ひいてはがんバイオマーカー全体に対する迅速な社会実装を目指した仕組みづくりも推進しています。

 

なかなか見つけにくい膵臓がん できるだけ負担なく見つけたい

膵臓がんは自覚症状が表れにくく、気が付いた時は既にステージⅢ期かⅣ期で、手術可能な患者さんは2割程度しかいないといわれています。さらにがんを摘出できたとしても再発率が高く、5年生存率はⅡ期で18.4%(相対生存率)(*1)、Ⅲ期で6.4%(同)、Ⅳ期で1.4%(同)と非常に低いのが特徴です。もしⅠ期で見つかれば生存率を45.5%(同)にまで引き上げることできますし、膵臓がんで亡くなる方を減少できるかもしれません。ただ、膵臓がんは、罹患率自体は人口10万人に対して32.3人(2017年)(*2)と低いがんの一つです。

「早期発見は確かに重要ですが、検診プログラムで10万人あたり32人の疾患を見つけてくるのですから、経済性や侵襲性を考慮した効率的な検査を考えないといけません。患者さんに負担がかかる造影CT検査や超音波内視鏡をする前に、膵臓がんの疑いのある人をまず絞る必要があるのです」と本田一文先生は、効率的な検査プログラムの重要性を強調する。

*1 出典:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2010-2011年5年生存率集計報告」(2019年12月発表)

*2 出典:国立がん研究センターがん情報サービスセンター「がん登録・統計」(全国がん登録)

血液中の物質の変化に着目 膵臓がんで高い判別能

本田先生は、がんの早期発見のための血液バイオマーカー研究の第一人者です。膵臓がんの血液バイオマーカーを発見し、膵臓がん検診の効率化を推し進めています。

バイオマーカーとは、ある特定の疾患や治療に対して体が反応し、血液や尿などに表れる生体内物質のことで、タンパク質や遺伝子などがそれに当たります。

膵臓がんでは、バイオマーカーの一種である腫瘍マーカーのCA19-9があります。しかしながら、膵臓がん以外のがんでも高値になることがあり、早期の膵臓がんの診断には十分な威力を発揮できません。

そこでプロテオミクス解析という新たな手法を用いて、膵臓がん患者と健常者の間で、特徴の異なるタンパク質はないか、徹底的に調べました。その結果見つかったのが、「アポリポプロテインA2」(以後、ApoA2)というタンパク質です。

ApoA2は2つの分子が結合して血液中を流れていますが、膵臓がんになると、C末端アミノ酸部分(A─T─Q)の組み合わせパターン(ApoA2切断様式)に違いが出てくることを発見しました。そこで実際に多施設の病院で、検証したところCA19-9より判別性能が高いことが分かりました。

さらに米国国立がん研究所、ドイツがん研究センターなどとの共同研究で、その有用性を確認しています。

膵臓がん患者と健常者の間で違いがある物質を発見

膵臓がん患者と健常者の間で違いがある物質を発見

同様のバイオマーカーを早く世に出す仕組みづくりも

ApoA2は既に、測定用キットとして製品化されていますが、まだ体外診断用のバイオマーカーとして薬事承認されていません。そのため、異常値が見つかったとしても、精密検査(CT検査)は自己負担しないといけませんし、バイオマーカーとしての精度の検証研究もまだまだ必要です。

そこで本田先生は、2017年から日本医療研究開発機構の研究班長として、血液検査から精密検査(造影CT検査)までを一括でできる検査精度の検証の仕組みを作りました。実施対象が徐々に増え、現在、被験者は1万4000人まで広がっており、検査の精度がさらに高まっていくものと期待されています。また、バイオマーカーの薬事承認を加速化する「バイオマーカー迅速検証プラットフォーム」(下図)立ち上げにも尽力しています。

バイオマーカーの薬事承認を加速化

バイオマーカーの薬事承認を加速化

「せっかくバイオマーカーが見つかっても、薬事承認に時間がかかれば、救える患者さんも救えなくなってしまいます。世の中にはまだまだ有望なバイオマーカーがたくさん報告されています。国内の病院・検診センター、米国、企業などと協働して、こういった有用性の高いバイオマーカーを早く世に出すための仕組みづくりにも、力を入れていきたいと思っています」

本田 一文先生

本田 一文先生(ほんだ・かずふみ)

日本医科大学 大学院医学研究科 生体機能制御学分野 大学院教授

1991年に日本大学を卒業後、東京医科大学口腔外科で口腔がんの診療にあたる。その後、リサーチレジデントとして国立がんセンター病理部で研修。バイオマーカー研究に興味を持つ。

厚生労働技官として国立がんセンター研究所化学療法部室長、早期診断バイオマーカー開発部門長を経て、2020年から現職。レジデント時代から一貫してバイオマーカー研究に従事。オリジナルな医療シーズを社会実装することで「一人でも多くの笑顔」を願っている。

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