Extra Quality

がん患者さんのQOL改善へ
「支持療法」にも注力

これまでの伝統を受け継ぎながらも、社会の変化に対応した進歩を続ける日本医科大学。その源となっている教育や研究についてご紹介します。

肺がん治療、特に非小細胞肺がんと呼ばれる肺がんの化学療法はこの20年で飛躍的に進歩しました。特にがん細胞に特異的に作用する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も種類が増え、併用を含めると、その選択の幅は多岐にわたります。

一方、抗がん薬の副作用の軽減などの「支持療法」の研究も進んできています。日本医科大学付属病院がん診療センター/化学療法科部長の久保田馨先生は、肺がんの化学療法に長年取り組みながら、患者さんのQOL(生活の質)の観点から「支持療法」の研究も積極的に進められてきました。

細胞障害性抗がん薬で支持療法の研究が進む

肺がん治療には、「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」などが使われ、Ⅲ期・Ⅳ期の患者さんの標準治療になっています。

どの抗がん薬にも副作用がありますが、がん細胞に特異な分子(タンパク質)の働きを抑える「分子標的薬」、最近脚光を浴びている「免疫チェックポイント阻害薬」はこれまでと異なるさまざまな副作用が発現するため、ほぼ全ての診療科と共同で対処します。

一方で、以前から使われ、分裂・増殖する細胞に対する攻撃力の強い「細胞障害性抗がん薬」に対しても、その症状を緩和させる「支持療法」の研究が進んでおり、さまざまな方法で、副作用を和らげています。

抗がん薬の副作用はさまざま使える〝カード〞を増やす

抗がん薬の副作用は、その成分や働きによって多岐にわたりますが、一般的に知られているものとして、「吐き気・嘔吐(おうと)」が挙げられ、軽減・予防に「制吐薬」を投与します。

「嘔吐」は、抗がん薬が消化管や脳にある5-HT3受容体が刺激でも引き起こされることが分かっていますが、久保田馨先生たちは、その受容体への拮抗作用を持つ2つの制吐剤の効果を、国内の他の医療機関と一緒に、化学療法を受けている患者1114人を対象に治験(Ⅲ相)を行いました。

  • 化学療法科のスタッフ

    抗がん薬を使った通院治療も行う化学療法科のスタッフ

  • その結果、パロノセトロン(第2世代)がグラニセトロン(第1世代)より吐き気を抑える効果が高く、若年、女性患者さんでより効果が高いことも明らかにしました(2016年)。「貧血」も抗がん薬の副作用の一つです。「骨髄抑制」といって血液細胞を作っている骨髄組織のダメージにより引き起こされることが分かっています。

    久保田先生たちは、海外の医療機関と組んで共同研究を行い、ダルベポエチンアルファという薬が、非小細胞肺がんで貧血のある患者さんに対し、生存率やがんの増悪度に関する優越性を明らかにしました(2020年)。

呼吸器内科教室のメンバー

呼吸器内科教室のメンバー

経口補水液が輸液代わりに外来治療をさらに後押し

細胞障害性抗がん薬の中で、30年以上前からさまざまながんに広く使われている抗がん剤に「シスプラチン」があります。非常に有用である一方で、腎臓の機能に影響を与えることがあり、投与前から大量の輸液をする必要がありました。この腎障害に対するマグネシウムを用いた短時間輸液の有効性を示すとともに、久保田先生たちは、他の医療機関との共同研究を行い、一部の輸液に代えて経口補水液を使えることを明らかにしました(2018年)。

「以前は7〜8時間かけて1週間ぐらい点滴していましたが、今は1日のみ3・5時間ほどで済むようになりました。朝から点滴して、昼過ぎには終わるので、買い物をして帰ることも可能になったのです。患者さんの生活を大事にする治療。肺がんに限らず、他の部位のがんも含めて、病院全体で対応しています」

コミュニケーションも患者さんの苦痛を和らげる

久保田先生は、がん治療における患者さんとのコミュニケーションの研究にも、国立がん研究センター在籍時代から力を入れている。

開発されたCST(コミュニケーション・スキル・トレーニング)プログラムの効果を調べるために行った研究(2014年)では、医師を対象に2日間のCSTワークショップを行うことで、第三者による医師の行動評定において「場の設定」「悪い知らせの伝え方」「付加的情報」「情緒的サポート」のスコアが有意に改善したという。

  • CSTワークショップ

    CSTワークショップ

  • また、このワークショップを受講した医師に診てもらった患者さんは、受けていない医師に診てもらった患者さんに比べて、「抑うつ」が有意に少なく、「信頼感」が有意に良好だったという。「日本医科大学では、新しい分子標的薬の治験にも参画し、患者さん一人ひとりに合った、個別化医療を進めています。

    また、多施設共同臨床試験に参加し、大学内の他の診療科との連絡を密にしながら、患者さんのQOLを考え、がん治療を行っています」

久保田馨先生

久保田 馨先生(くぼた・かおる)

日本医科大学呼吸器内科学教授
付属病院がん診療センター/化学療法科部長

1983年熊本大学医学部卒業。1993年から国立がんセンター東病院、中央病院に勤務する。途中、米国ヴァンダービルト大学医療センターに留学。

2011年から日本医科大学付属病院化学療法科部長、2012年がん診療センター部長、2015年呼吸器内科部長、2016年から現職

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