特集

救急・総合診療センターの使命

隠れた病気も見逃さない診断のプロフェッショナル

「体調が気になるけれど、どの診療科を受診すればいいか分からない」 「一つだけではなく、いくつもの病気を抱えている」 「地元の病院で検査したが、病名が分からない」 このような悩みを抱えている人は少なくありません。 そんなときに頼りになるのが、臓器にとらわれず患者さんの全身を通して疾患を診る「総合診療科」。 診断のプロフェッショナルとして24時間365日、救急患者の診断・治療を続ける日本医科大学付属病院「救急・総合診療センター」の安武正弘先生に、総合診療科の役割やセンターの特徴についてお話を伺いました。
  • 受付

    自分で歩いて来院した患者さんはまずここで受付をする

    救急搬送

    転倒して左側頭部に外傷を負い救急搬送され、処置室で治療を受ける患者さん。指導医、トリアージナース、形成外科医師、研修医、看護師らが一丸となって対応する

  • プレート

    受付に置いてある診療の流れを分かりやすく示したプレート

24時間365日対応まず看護師がトリアージ

―はじめに総合診療科について教えてください。

一つの臓器だけにとらわれず、患者さんの身体全体を見渡して診断・治療を行うのが総合診療科です。高齢化にともなって複数の疾患を併発する患者さんが増えています。そうした患者さんに対応し、また高度に専門化・細分化した専門医療への橋渡し役として、総合診療科の重要性が高まっています。

―日本医科大学付属病院の救急・総合診療センターの特色を教えてください。

最大の特徴は、救急診療科と総合診療科が一体となって運営されていることです。そのため、内科的疾患だけでなく外科的な問題にも、24時間365日対応することができます。

一刻を争う重症患者さんは高度救命救急センターが対応しますが、それ以外の一次・二次救急の患者さんについては、当センターが窓口となって受け入れています。

―24時間365日、救急医療を受けられるのは患者にとって安心ですね。

病院全体で総合診療科の重要性を理解し、協力体制が整っているからこそ可能なのだと思います。総合診療科および救急診療科の医師に加え、疾患の多い循環器内科、呼吸器内科、消化器内科・消化器外科・形成外科などの医師の協力を得ているほか、専修医と呼ばれる各診療科の若手医師がローテーションで治療に当たっています。

―受診から診察までの流れを教えてください。

  • 救急車、自分で歩いて来院した患者(ウオークイン患者)さんを問わず、まず初めに看護師によるトリアージ(重症度によって優先度を判別すること)を行い、最も緊急度の高い「レベル1」から緊急度の低い「レベル5」にまで振り分けます。

    トリアージの後に担当医が診察・検査を行い、診断が下された時点で各専門医へ紹介。一般的な治療で対応可能なケースは総合診療科で治療し、必要に応じて入院まで対応します。

  • まず看護師がトリアージを行う

    まず看護師がトリアージを行う。レベルによってさらに中の処置室に移動する

―入院もできるのですね。

  • 当センターでは15床のベッドを持ち、年間300人以上の入院患者さんを受け持っています。総合診療部門を持つ大学病院の中でも、入院するためのベッドを持つ施設は多くありません。外来から入院まで、切れ目ない治療を提供できるのは当センターの強みです。

  • 多くの来院患者にもすぐに対応できるように診察室は5つある

    多くの来院患者にもすぐに対応できるように診察室は5つある

紹介状なしでも受け付け重篤な病気を持つ場合も

―大学病院(特定機能病院)は紹介状を持たないと受診できないと聞きましたが…。

大学病院としては珍しいかもしれませんが、当院では紹介状なしのウオークイン患者も受け入れています。なぜならそうした患者さんの中にも、深刻な病気が隠されていることがあるからです。

紹介状のない患者さんを受け入れないとなると、重篤な病気を持つ患者さんを取りこぼしてしまうかもしれません。

当センターには年間、初診患者約1万人、再診を合わせると約1万6000人の患者さんが受診しています。トリアージの結果、ウオークインでも4人に1人は緊急度の高い患者さんが含まれていることが分かりました。

実際に、約1万人の初診患者のうち、急性心筋梗塞やうっ血性心不全、肺動脈血栓塞栓症など緊急度の高い病気だった患者さんは114人に上り、そのうち62人はウオークインで来られた患者さんです(2016年度)。

―どのような患者が多いのでしょうか。

最も多いのは「外傷」と「呼吸器疾患」で、それぞれ約15%を占めています。次いで「消化器疾患」「循環器・心疾患」などが続きます。

「がん」などの重篤な病気も1・5%と、一般の外来診療よりも高い確率で見つかっています。患者さんが訴える主な症状としては「発熱」「腹痛」「めまい」が多くなっています。

地域の病院を受診してもなかなか診断がつかない、あるいは治療を行っていても良くならないなどで、当センターを受診するケースもあります。

総合診療科はいわば「診断のプロフェッショナル」集団。原因不明の発熱なども、患者さんの訴えや検査データをもとに、複数の可能性の中から正しい病名を導き出して適した診療科へつなぎます。

―大学病院の総合診療科ならではの強みはありますか。

最大の強みは、バックに大学病院の一流の専門家が控えていること。そのためどのような患者さんであっても、安心して受診していただくことが可能です。精神科救急や小児外科などごく一部の領域を除き、ほぼすべての疾患に対応できるのが強みですね。

本院以外の付属3病院に順次展開していく

―安武先生が総合診療医になったきっかけを教えてください。

医師としての原点に立ち返ったからです。曽祖父からの代々医師で、夜中でも患者さんに呼ばれると飛び出していく父の背中は、子ども心にとても印象に残っています。

もともとは循環器内科専門医として、主に虚血性心疾患に対するカテーテル治療を得意としていました。2013年に大学の組織再編があり、所属する内科学講座(旧第一内科)が循環器内科分野と総合医療・健康科学分野(総合診療科)に分かれる際に、総合診療科を選択しました。

―総合診療科の将来像を教えてください。

若手医師の育成、そして大学病院の使命でもある研究にも力を入れていきたいです。総合診療科というのは、医療の中では比較的新しい領域です。新専門医制度の中でキャリアパスが明確でなかったため、総合診療科を選択する若手医師は少なかったのですが、センター開設から6年目を迎え、ようやく専攻医が入局するようになりました。今後は若手医師の育成や、産休・育休でキャリアを中断しなければならなくなった女性医師が総合診療医としてキャリアを築いていくことなどをサポートし、たくさんの仲間を増やしていきたいです。

―本院以外の付属3病院にも総合診療科は開設していく計画ですか。

2018年10月から武蔵小杉病院にも救急・総合診療センターが開設されました。多摩永山病院、千葉北総病院にも順次、展開していきたいと考えています。

豊富な専門医が控えている本院と付属3病院とでは環境や診療体制が異なる面もあるかもしれませんが、患者さんをスムーズに受け入れるために総合診療部門が重要なことに変わりはありません。

本院で培ったノウハウを生かし、日本医科大学のどこの付属病院でも同じように、患者さんが安心して受診できる体制作りを進めていく方針です。

  • 朝の申し送りミーティング

    朝の申し送りミーティングの様子。学生、研修医、看護師、受付事務、指導医全員がそろい、詳細な引き継ぎが行われる。振り返り症例の情報も共有される

  • 救急・総合診療センターのスタッフ

    救急・総合診療センターのスタッフ

安武 正弘 先生

安武 正弘 先生(やすたけ・まさひろ)

1984年に日本医科大学医学部を卒業し、第一内科に入局。専門は循環器内科。現在、日本医科大学付属病院総合診療科部長、日本医科大学大学院 総合医療・健康科学分野教授。

1992年英国St.Thomas Hospital心臓血管研究施設留学し、基礎研究などにも従事してきた。

安武先生の治療への想い

一次・二次救急を24時間365日、外来から入院までトータルでカバーする
―それが日本医科大学付属病院救急・総合診療センターです

「どこにかかればいいか分からない」―そんなときは総合診療科にお任せください。専門医の強力なバックアップの下、24時間365日、どんな患者さんにも対応するのが使命です。私たちは、患者さんの訴えを聞いて適切な診断を下す、いわば臨床推論のプロフェッショナル。隠れた病気も決して見逃さず、スピーディーに診断し、適した専門診療科へ橋渡しを担います。

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