特集

進歩し続ける呼吸器内科治療

難治性呼吸器疾患を治すために
新しい治療につながる研究にも注力

日本医科大学付属病院の呼吸器内科は、日本人の死亡原因1位である肺がんをはじめ、間質性肺炎やCOPD、気管支ぜん息などの内科的治療を行うとともに、新しい治療法につながることを目指した基礎研究や臨床試験にも注力しています。4つの付属病院と呼吸ケアクリニックが連携して専門的な治療を進めるなど、呼吸器内科治療において日本をリードする立場にある呼吸器内科部長の清家正博先生に、同科が強みとする治療や研究について伺いました。

遺伝子変異を調べて
それぞれに最善の薬を選択

―日本医科大学呼吸器内科の対象疾患や診療の特徴を教えてください。

対象疾患は、悪性腫瘍、間質性肺炎などのびまん性肺疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支ぜん息、感染症など、かなり幅広く網羅しています。また、大学付属4病院のそれぞれに得意とする疾患があり、それぞれの地域性を考慮した最先端の治療をしながら、4病院が有機的に連携しています。

それらの中でも悪性腫瘍と間質性肺炎に関しては、1982年の呼吸器内科学教室設立以来、歴代の先生方が築き上げてきた実績があり、どの疾患においても全国的に見てトップレベルの診療をしていると自負しています。

―悪性腫瘍である肺がんは、どのような病気なのでしょうか。

肺がんは日本人の死亡原因の第1位であり、完全に治すことの難しいがんです。近年胃がんなどは減ってきているものの、肺がんは依然として増加傾向にあります。

肺がんの初期はほとんど症状がありませんので、肺がん検診で見つかるケースが少なくありません。咳や胸の痛みといった症状から肺がんが見つかることもありますが、その頃にはある程度腫瘍が大きくなっています。初期の肺がんを発見するには、定期的に胸部X線検査を受けることが大切です。

―肺がんに対してどのような治療を行っているのでしょうか。

肺がんの内科的治療は、抗がん薬による化学療法、遺伝子変異に特化した分子標的薬療法、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法という3本柱を基本としています。

また、肺がんと診断された患者さんには、2019年より、肺がんに関連する46個の遺伝子異常とPD-L1というがん免疫療法に関わるタンパク質発現を調べた上で薬剤を選択する〝個別化医療〟が標準的に行われるようになりました。原発不明がんや標準治療が終了しているなどの条件を満たす患者さんに対して、数百の遺伝子変異を一度に調べる「がんゲノムパネル検査」も保険適用されるようになりました。

―肺がん治療は急速に進歩しているということですね。

私が研修医になった30年くらい前は、肺の進行がんにかかった方の多くは1年以内に亡くなっていました。しかし今は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬もあり、進行がんでも長期生存ができるケースが出てきています。実際、週単位の予後だろうと思われた患者さんが薬の効果で劇的に回復して、退院後数年生きられたこともありました。

この数年の劇的な変化を見ていると、数年後には進行がんを治せる時代が来るのではないかと思うほどです。吐き気などの副作用に対する支持療法も進歩していますし、働きながら治療を継続することが可能になるなど、肺がん治療を取り巻く環境は大きく変わったと感じています。

新しい治療法につながる
研究や臨床試験でも多くの実績

―肺がん治療における、日本医科大学の強みは何ですか。

間質性肺炎や肺気腫、心臓疾患などの合併症のある肺がん治療は、当科が強みとしていることです。特に間質性肺炎を合併する肺がんは治療法が限られている上に管理も難しいのですが、私たちは肺がん治療と間質性肺炎治療どちらにおいても日本トップレベルの実績があり、新たな治療の開発にも貢献しています。

さらに将来を見据えて、新しい治療法を作り出すことも大学病院の使命の一つだと考え、基礎研究に注力しています。それも単なる基礎研究で終わらず、有効なバイオマーカーを見つけるなど、基礎から臨床につながるようなトランスレーショナル研究に取り組んでいます。

―基礎研究以外で注力していることはありますか。

治療法や薬の安全性と有効性を確認する臨床試験でも、数々の貢献をしています。その代表ともいえるのが、EGFR遺伝子変異に対するゲフィチニブ(イレッサ)という薬の有効性を示す臨床試験です。その臨床研究グループにおいて中心的役割を果たしていたのが、弦間昭彦前教授をはじめとした日本医科大学呼吸器内科でした。

最近でも、ゲフィチニブと化学療法の併用療法の有効性を示す臨床試験を行い、その結果、新たな一次治療選択肢として併用療法がガイドラインに掲載されることになりました。また、日本国内だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬に関する多施設共同の国際共同治験にも参加しています。

待ち時間が少なく通いやすい
呼吸ケアクリニックと連携

―間質性肺炎はどんな病気ですか。

間質性肺炎は肺の間質(肺胞以外の部分)が繊維化してしまう病気です。普通の肺炎はウイルスや細菌が原因となって発症するのに対して、間質性肺炎の多くは原因不明です。

息苦しさや咳などの症状があり、進行性の病気のため生命予後はあまり良くありません。

―どのような治療が行われますか。

以前はステロイドしか選択肢がなかったのですが、今はピルフェニドンとニンテダニブという2種類の薬があります。これらの薬だけで劇的に治すことは難しいですが、進行を止める薬が出てきたことは一歩前進といえます。これらの薬の国際共同治験に日本医科大学が中心的立場で参加し、新たな治療法の開発などに貢献してきました。

―COPD治療の特徴は。

COPDや気管支ぜん息、肺気腫などの患者さんは、呼吸ケアに特化した呼吸ケアクリニックで治療を受けることができます。大学付属病院でもそれらの疾患の治療、呼吸器の検査やリハビリテーション、在宅酸素療法などを行いますが、検査や診察の待ち時間が長くかかってしまいます。その点、呼吸ケアクリニックには、より専門的な検査装置や専門スタッフもいて、大学病院では入院して行うような検査も1日で終わります。

呼吸ケアクリニックは外来化学療法を始めましたので、働きながら化学療法を受けている患者さんなどがスムーズに治療を受けられると思います。

肺がんの根治を目指して 基礎も臨床も発展させていく

―さまざまな肺疾患を予防するうえで大切なことは何でしょうか。

やはりタバコをやめることです。喫煙により肺がんのリスクは約5倍になりますが、禁煙から約10年で非喫煙者と同じくらいまでリスクが軽減するといわれています。間質性肺炎や肺気腫も喫煙により進行しますから、禁煙はとても重要です。

―これからの肺がん治療はどのように発展していくでしょうか。

いまだに日本人の死亡原因1位である肺がんを治せるようにすることが一番の目標です。そのためには薬剤耐性など克服すべき課題が山積していますが、テクノロジーやサイエンスの進歩のスピードを考えれば、これから先もさらに進歩する可能性はあると思います。私たちは目の前の課題解決に向けて、一つ一つ取り組んでいきます。

―最後に、呼吸器内科として今後進めていきたいことを教えてください。

基礎から臨床につながるトランスレーショナル研究をさらに進めていくことです。基礎研究で見つけたバイオマーカーなどを使い、新たな治療法開発や創薬を実現したいと考えています。

その実現のためには、若い医師や大学院生への指導も大切です。私自身も留学時代に研究を経験したことが大いに役立っていますが、研究を通して多くのことを学んだ若い人たちが中心となって、呼吸器内科を発展させてほしいと願っています。

清家正博先生

清家 正博先生(せいけ・まさひろ)

1992年日本医科大学医学部卒業。日本医科大学第4内科入局。国立がんセンター研究所リサーチレジデント、米NCI/NIH留学などを経て、日本医科大学付属病院講師、がん診療センター副部長、大学院呼吸器内科分野准教授などを経て、2022年より現職。

清家先生の治療への想い

完全に治すことは難しくても、できることは必ずあると信じています

肺がんや間質性肺炎は完全に治すことが難しい病気ではありますが、どんな病気でもできることは必ずあります。私自身も、患者さんと対話する中で、治療にとって大切なことをたくさん学ばせてもらっています。これからも患者さんとたくさん話し、一緒に考えながら、その患者さんにとってベストと思える治療を進めていきたいと思っています。

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