特集

整形外科の最先端治療

ロボティックアームや内視鏡手術で
早期の社会復帰をサポート

日本医科大学付属病院の整形外科は、2021年4月から、ロボティック手術支援システム「Mako(メイコー)システム」による人工膝関節置換術をスタート。また、内視鏡手術も積極的に取り入れるなど、できるだけ早期に社会復帰できるような治療を行っています。患者さんのQOL向上を第一とする整形外科学主任教授の眞島任史先生に、同科の強みである「先端医療」と「低侵襲な治療」の最先端について伺いました。

ロボティックアームを使い正確で安全な手術を行う

―日本医科大学の整形外科はどのような診療科なのでしょうか。主な対象疾患と特徴を教えてください。

整形外科は、頸椎から足先までの全身の骨や関節、筋肉、神経など、体を支え動かす運動器に関わる病気を診療する科です。また、日本医科大学が目指す「誰も断らない医療」を最前線で実践する高度救命救急センターと連携した、外傷(ケガ)の治療にも注力しています。

運動器の病気やケガの治療において私たちが大切にしているのは、子どもから高齢者まで、誰もが体を動かせて、社会参加できるようにすることです。そのために高度な治療を行うのはもちろん、治療後もできるだけ早期に社会復帰できるように努めています。

―特に力を入れているのはどのような治療でしょうか。

近年注力しているのは「先端医療」です。膝や股関節といった下肢の変形性関節症は世界に3億人、日本にも1千万人以上の患者さんがいるといわれている疾患で、重症になると人工関節に置き換える手術(人工関節置換術)が適用になります。

2021年の4月からは、人工膝関節置換術でロボティック手術支援システム「Makoシステム」(ストライカー製)を導入しました。このシステムは日本で初めて承認された整形外科領域の手術支援システムで、人工股関節、人工膝関節で薬事承認を取得しています。

ロボティックアーム手術は、機械の腕(アーム)を医師が操作して行う手術方法で、人工関節を設置するために骨を削るときに使います。

ロボティックアーム手術支援システムを使った人工関節置換術

極めて正確に手術が行え、切除範囲も小さいので回復も早い

  • 整形外科における手術件数(2020)
  • ―ロボティックアーム手術は具体的にどのように行われるのでしょうか。

    手術前にCT画像を撮り、骨を切る位置の三次元設計図を作成します。術中はこの設計図の通りに術者の操作の下、ロボティックアームが動き、計画位置から少しでも外れればシステムの制御が働き、ロボティックアームが自動で止まるように設計されています。

    切除する骨の周辺には血管や神経が近接していて、誤って傷つけると神経血管障害などの合併症を起こし、最悪の場合は足を切断することになりかねません。この術後合併症が起きる頻度が従来の報告では、年間10万人に54人でしたが、ロボティックアーム手術では、ほぼゼロに減らすことができます。

    ―ロボティックアーム手術を導入するメリットはどのようなところですか。

    やはり、極めて正確なことです。人工関節置換術では、人工関節を設置する最適な位置(アライメント)が決められていますが、この位置が3度ずれるだけで術後に痛みが出て、人工関節の耐用年数が数年単位で短くなることが分かっています。その点、ロボティックアーム手術でのずれはわずか1度以下と、ほぼ完璧な精度で設置することができます。また、切開する範囲が小さくて済むので、術後の回復が早いというメリットもあります。

  • 侵襲を極力減らす内視鏡手術を積極導入
    早く退院して元の生活に戻す

    傷口わずか1㎝以下の手術も可能になり、腰椎椎間板ヘルニアの場合、術後3時間で歩行でき、2日で退院することも可能に

    肩関節鏡下手術

  • 微小内視鏡を使った腰椎椎間板ヘルニアの手術

術後2日で退院できる
低侵襲な内視鏡手術も導入

―そのほかに整形外科で力を入れている治療法はありますか。

整形外科のもう一つの強みに「最小侵襲手術」があります。そのために関節や脊椎の内視鏡手術を積極的に行っています。内視鏡手術は、直径8㎜ほどの内視鏡を挿入して、管を通してさまざまな器具を使って治療する方法です。肩腱板損傷や脱臼、膝の半月板損傷や軟骨損傷・靭帯損傷、初期の脊柱管狭窄症、ヘルニア、変形性脊椎症、腰椎椎間板症など、神経が圧迫されて痛みがある疾患を対象に行っています。

―内視鏡手術をすることのメリットは何でしょうか。

カメラを入れる小さな穴を開けるだけで切除できるので、傷口は1㎝以下と小さく術後の回復が早いことです。例えば腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術でしたら、術後3時間程度で歩行を開始し、多くの場合2日程度で退院できます。一日も早く社会復帰をしてほしいという思いから、患者さんの侵襲を最小限にできる内視鏡手術を行っているのです。

QOL向上のための骨転移治療や再生医療

―手術以外の治療では、どのようなものがありますか。

がん患者の増加に伴って増えている「転移性骨腫瘍」の治療も、私たちが力を入れていることの一つです。さまざまな臓器にできた腫瘍が背骨や骨盤に転移することは多く、根治することはなかなか難しいです。

例えば腫瘍のせいで背骨が潰れると足に麻痺が起きて歩けなくなることがあるので、手術をして麻痺が起こらないようにします。少しでも動けるようにして、患者さんのQOLを高めることを目的とした治療といえます。当科では、転移性骨腫瘍の治療のために毎月キャンサーボード(専門的な知識を持つさまざまな分野の医療スタッフが治療方針を議論するカンファレンス)を開催し、他科と連携した治療を進めています。

―最新の再生医療も実施しているそうですが。

はい。手術をするほどではない変形性膝関節症に対して、再生医療の一種であるPRP(多血小板血漿(けっしょう))療法を行っています。変形性関節症では軟骨がすり減ることで関節のかみ合わせが悪くなり、炎症が起きて痛みを感じます。炎症部位に水がたまることもあります。そのような炎症の治療として、患者さん自身の血液に含まれる成長因子を濃縮して関節に注入するのがPRP療法です。

現時点では全額自費診療となりますが、外来を受診して採血して、その日のうちに注射して帰ることができます。

家庭での筋トレなど
予防のためのアドバイスも

―腰や膝の痛みに悩んでいる人も多いと思いますので、日常生活でできる予防法があれば教えてください。

腰痛や膝痛があってもいきなり手術をしたりせず、炎症を抑えて痛みをとる保存的治療が基本です。そのため、変形や痛みを増強させないための予防がとても大切です。ある程度の年齢になったら筋肉を鍛えることをお勧めしています。

筋肉を鍛えれば関節がぐらつきにくくなり、腰や膝の負担が減るからです。また、負担軽減にとって大切なことが減量です。片足で立っているときの膝には体重の3倍以上の負担がかかっていますから、3㎏痩せれば10㎏分もの負担が減ることになります。

―コロナ禍での運動不足に対するアドバイスはありますか。

コロナ禍では、緊急事態宣言が解除されるたびにケガで受診される患者さんが増えたという印象があります。宣言で家に閉じこもっていて、明けると皆さん外に出歩くようですが、ほとんど家の中だけでの生活で筋肉が落ちているために転んでしまい、骨折などされるようです。外来にいらっしゃる患者さんには、テレビを見ながらでもいいので、筋トレをするようにアドバイスしています。家にいる時も体を動かすようにしてほしいですね。

―今後に向けて、新たにチャレンジしていることなどあれば教えてください。

整形外科は、手術も保存的治療もとても高いレベルにあると思いますので、これからは基礎研究のレベルも上げていきたいと考えています。現在は薬理学教室と共同で、従来の鎮痛剤とは異なる機序での痛みを遮断する仕組みについて研究しています。

他の診療科と連携した新しい治療もさらに進めるなど、整形外科で治療を受けた患者さんたちが早期に社会復帰を果たし、QOLを高めることに貢献していきます。

日本医科大学の整形外科スタッフ

眞島先生

眞島 任史先生(まじま・ときふみ)

1984年北海道大学医学部医学科卒業。1997年カナダ・カルガリー大学留学。医学博士。北海道大学大学院医学研究科助教授、同大学院人工関節・再生医学講座教授、国際医療福祉大学病院教授・整形外科部長を経て、2017年より日本医科大学付属病院整形外科・リウマチ外科臨床教授。2020年より現職。

眞島先生の診療への想い

納得して治療を受けてもらえるように、分かってもらえるまで丁寧に説明するようにしています

侵襲を少なくしてできるだけ早く社会復帰できるように努めることが第一ですが、患者さんが納得して治療を受けられることを大切にしています。整形外科治療では患者さん自身の日々の生活や運動習慣なども重要ですが、理解していないままだと治療モチベーションが上がりませんし、運動などの行動を起こすこともできません。ですから、どうしてその治療や運動が必要なのか、時間をかけて詳しく説明するようにしています。

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