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遺伝性不整脈の解明へ国内データベース作成

これまでの伝統を受け継ぎながらも、社会の変化に対応した進歩を続ける日本医科大学。その源となっている教育や研究についてご紹介します。

不整脈の中でも「遺伝性不整脈」と呼ばれる疾患は、心臓に器質的な異常がない人でも突然死を引き起こす場合があり、危険性が高いことが分かっています。

心筋梗塞や心不全といった循環器疾患が高齢者に多いのに対して、遺伝性不整脈は小児や20〜30代の成人でも発症する、若い世代に見られる疾患です。心臓突然死を防ぐためにも、病態の解明や治療法の開発が求められています。

日本医科大学付属病院の循環器内科で臨床研究を進める清水渉先生は、日本を代表する研究者として世界に向けて発信を続けています。

日本医科大学循環器内科のスタッフ

遺伝子型による違いを分析発作の要因が明らかに

遺伝性不整脈の一つ「先天性QT延長症候群」は、2000人に1人いるといわれ、胸の痛みや息苦しさなどの症状が全くないまま、「トルサードポアン」(多形性心室頻拍)や心室細動を引き起こし突然死につながる疾患で、心電図のQTの間隔が長くなるのが特徴だ。

1990年代後半から遺伝子診断の技術が進歩し、原因となる遺伝子が明らかになってきた。循環器内科を専門とする清水渉先生が研究しているのは、そうした突然死の原因となる遺伝子異常についてである。

厚生労働科研費の支援の下、2006〜2017年に行った国内多施設登録研究では、清水先生が班長となり、国内11施設のデータをまとめたデータベース作りに尽力した。

  • 「先天性QT延長症候群の遺伝子型のうち、最初に見つかった頻度の高いLQT1型・2型・3型の1124例を全国から集約。データベースとして継続的にフォローアップし、それぞれの遺伝子型ごとに経過観察しました」

    それによって分かったのは、遺伝子型によって異なる発作の誘因である。例えばLQT1型(KCNQ1遺伝子が関与)は、圧倒的に運動中に発作が起こることが多く、LQT2型(KCNH2遺伝子が関与)で特徴的なものは大きな音で急激な緊張状態になった時、LQT3型(SCN5A遺伝子が関与)では副交感神経が優位となる睡眠中に発作が起きやすい。

    「予防・治療には遺伝子診断が重要です。遺伝子型を特定することで発作の誘因が明らかになるので、それに合わせて効果のある薬を処方し、生活習慣の改善に取り組むことができます。

    遺伝子診断がここまでしっかりと治療につながっている分野は、ほかではありません」同じLQT1型の中でも遺伝子のどの位置に変異があるかで、重症度が変わることも分かっている。

    11年かけてまとめたデータベースは、2019年1月に循環器分野の医学誌〝JAMACardiology〞で発表された。清水先生の研究はそのまま日本循環器学会の診療治療ガイドラインにもなっている

  • 遺伝子変異によって、突然死につながるような不整脈が起きることが分かってきた。

    遺伝子変異によって、突然死につながるような不整脈が起きることが分かってきた。遺伝子を調べることで、不整脈を未然に防ぐことも可能になっていきそうだ

国内データベースの解析で遺伝子診断・治療が一層進む

日本オリジナルのデータベースを作ったことで、年齢と性差による発症の違いについても解明が進んでいる。15歳未満では発作の起こる確率に性差はなかったが、15歳以上では女性の方が確率が高い。

「女性は思春期を超えて女性ホルモンが出始めると、発作が起きやすい。私が研修医の頃に、先天性QT延長症候群で倒れて運ばれてくるのはほとんど女性。それまで実感としてあったものが、実際にデータを取ったことで立証されたのです」

先天性QT延長症候群と並んで遺伝性不整脈の一つである「ブルガダ症候群」も、同様にデータベース作りが進められている。ブルガダ症候群は心電図にST上昇という特徴的な波形があり、日本では健康診断で1000人に1人ほど見つかる疾患。清水先生の率いる研究グループが2008年から7年間、国内多施設登録研究で追跡調査したところ、〝SCN5A〞という遺伝子に変異があった患者はない患者に比べて、致死性不整脈が2倍の頻度で起きていることを発見した。

これらの実績が評価され、清水先生は遺伝性不整脈の国際診断基準の作成にも携わっている。

「私の研究分野ではすでに、「個別化医療」から、遺伝子変異などを解析して予防する「先制医療」へと新たな流れができています。遺伝性不整脈は、変異がある遺伝子が特定されており、将来的にはゲノム操作で病気そのものを治せるようになるかもしれません」

清水渉先生

清水 渉先生(しみず・わたる)

日本医科大学付属病院 循環器内科 大学院教授

1985年に広島大学医学部を卒業。1987年に国立循環器病センター心臓血管内科のレジデントに。そこで、不整脈診療の第一人者である大江透先生に出会い、診療の傍ら「遺伝性不整脈疾患」の研究に力を注ぐ。

国立循環器病研究センターの心臓血管内科部長を経て、2013年から現職。

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